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FXの人気書籍の手法を、本の解説と一緒に実データでバックテストするシリーズです。第3回は、生涯収支15億円超の秒スキャルパーが書いた『チリが積もって15億』。著者自身が「手法の解説が目的ではない」と明言する異色の本ですが、検証してみると、本に書かれた「時間の歪み」のひとつが実データでも生きていることが確認できました。
どんな本か ― 騙され、溶かし、それでも辞めなかった人の記録
著者のジュンFXさんは2008年、ブラック企業勤務の絶望から一発逆転を狙ってFXを始めました。そこからの5年間は、勝ち組の入り口とは正反対です。有名ブロガーの取引履歴を1年かけて検証したら捏造だった(土曜日に取引記録があった――為替市場は土曜休場です)。「聖杯がある」と言う人物に資金を持ち逃げされた。1万円入金しては溶かすを繰り返し、情報商材や商品先物も含めて約200万円を失った。
転機は秒単位のスキャルピング「秒スキャ」に辿り着いたこと。2016年頃に累計利益1億円、2022年に10億円、刊行時点で生涯収支17億円に達したとしています。1回の発注は100万通貨(約1.5億円相当)が基本、多いときは300〜400万通貨。2pips取れば1回で6〜8万円です。
興味深いのは、本書の中で公開されている著者の実データです。勝率55%・ペイオフレシオ1.62、そして勝ちトレードの平均保有24秒・負けトレードの平均保有2秒。勝率は驚くような数字ではありません。著者自身「コイントスより5%程度の優位性」と表現しています。その小さな優位性を、桁外れの回転数と複利で15億円まで積み上げた――書名の「チリが積もって」はそういう意味です。
本で紹介されている考え方 ― 節目・大衆・時間
著者は「永遠に通用する手法はない。手法の手前にある考え方は普遍的」という立場で、具体的な売買ルールは意図的に全公開していません。それでも本書には検証可能な主張がいくつも書かれています。
- ラウンドナンバー(キリ番): 150.00や150.50のような末尾ゼロの価格には注文が集中する。初心者向けの原則は「ラウナンのファーストタッチ(最初の到達)は逆張り」――1回目は跳ね返されやすく、ブレイクするのは2回目以降が多い
- 節目の強さは価格でなく「時間」で決まる: 前日高値・安値より年初来高値・安値、それより史上最高値。その価格の形成に長い時間がかかっているほど節目は強い
- 時間帯のアノマリー: 東京仲値(9:55)に向けてドル円は上がりやすく、ゴトー日(5・10・15・20・25・30日)はそれが強まる。月末のロンドンフィックス、年末の「イッツー」(一方通行相場)など、カレンダーが作る歪み
- 上げは放物線、下げは一直線: 本書の実例では、ドル円の10円上昇に43営業日、10円下落は10営業日。下落は損切りが損切りを呼ぶため速い
そして本書は、海外FXの読者には耳の痛いことも書いています。著者の秒スキャは国内業者の0.2銭スプレッドが前提で、スプレッドの広い環境では期待値1銭弱の商売は成立しない、と明言しているのです。当サイトは海外FXの情報サイトですが、ここを曖昧にして紹介するのはフェアではないので、後半で正面から扱います。
バックテストしてみた ― 機械化すると消えるもの、残るもの
46日分のティックデータ(1秒未満の値動き)と4年分の15分足で、本の主張のうち機械化できるものを検証しました。
まず、消えるものから正直に。「ラウンドナンバーのファーストタッチで逆張り」を文字どおり機械化すると、勝率46.7〜50.6%でランダムエントリー(50.9%)と区別が付きませんでした。ティックで観察すると、初タッチ後の30秒間は反発(中央2.5〜3pips)より貫通(中央5〜7pips)の方が大きい。「150.00が見えた瞬間に売り」をそのままやっても勝てないのです。これは著者が「手法をそのまま真似るな」と言っていることの、データによる裏書きだと私は解釈しています。秒スキャの本体は、板と値動きを見ながらの秒単位の出し入れ――勝ち24秒・負け2秒という異常な非対称の執行――であって、エントリー価格の暗記ではありません。
次に、残ったもの。時間帯アノマリーの検証で、ひとつだけ際立って頑健な結果が出ました。ゴトー日の仲値通過後、9:45に売って10:30に決済するという単純なルールです。

- 4年分・236回の平均: +4.3pips/回(統計的な確かさを示すt値は3.9で、偶然では説明しにくい水準)
- 年別に見ると2022年から2026年まで5年連続プラス
- ゴトー日でない日は平均ほぼゼロ=カレンダーが効いている証拠
- この期間のドル円は歴史的な上昇相場。その中で「売り」の側に出ている点が特に強い
「仲値に向かって上がる」という前半部分は2022年以降のデータでは確認できませんでしたが、「仲値の後に垂れる」は本物でした。実需のドル買いが9:55に集中し、その後に需給が緩む――本の説明する機構と方向が一致します。なお「上げは放物線、下げは一直線」も、6年分の1時間足で歪度がはっきりマイナス(下方向の大きな動きが多い)で、著者の観察どおりでした。
スプレッドの話から逃げない
前述のとおり、著者は海外FXを秒スキャには不利だと明言しています。実測値で言えばそのとおりで、国内0.2銭に対し、海外FXのスタンダード口座は1pips前後が普通です。当サイトの実効コスト実測ランキングで最安クラスの口座がドル円0.2〜0.7pips。秒単位の回転勝負をするなら、著者の言うとおり土俵の差は決定的です。
では海外FXでこの本をどう活かすか。答えは回転数を落とすことです。今回実測で生き残った「ゴトー日の仲値後」は保有45分・1日1回だけの型で、スプレッドの往復コストを1回分しか払いません。+4.3pipsの平均に対して0.4pips程度のコストなら、土俵の差は呑み込めます。秒の勝負は国内の土俵、時間の歪みはどの土俵でも生きる。これがこの本を検証して得た、いちばん実用的な整理です。
初心者はこの本をこう読むのがおすすめ
- 手法の本ではなく「生存の記録」として読む: 騙されても溶かしても検証を続けた5年間、大相場(2013年・2022年)が来たときに退場していなかったこと。著者が伝えたいのは技術より先にこの順序です
- 「勝率55%で15億」という現実を知る: 派手な勝率ではなく、小さな優位性×回転×複利×資金管理。FXで勝つことの実際の形が具体的な数字で分かります
- 時間の歪みという入り口: 仲値やゴトー日は、初心者が「相場には構造がある」ことを体感できる数少ない現象です。当サイトの検証でも生きていました。まずはチャートを9:45〜10:30だけ観察することから始めても、十分に学びがあります
実測最安クラスの口座を選ぶ
秒スキャの土俵は国内0.2銭、というのが著者の立場です。海外FXでその差を縮められるのは実測で最安クラスの口座だけ。当サイトのMT5実測でドル円0.2pips台を記録したBigBossは、ボーナス15,000円(付与を実測確認済み)から試せます。まずは回転の少ない型から始めてください。
参考文献
- ジュンFX『チリが積もって15億 底辺からFXで成り上がった僕とあなたの微差』(扶桑社、2024年)
